本稿では、まず森林資源としての木材の特徴と利用の歴史を確認し、次に腐朽やシロアリ被害の仕組みと実態を説明します。その上で、国が示す劣化対策の考え方を紹介します。
木材と森林資源
住宅の耐久性や長寿命化の話の前に、森林と木材について話します。森林は地球環境を守る重要な役目を果たし、森林から生み出された木材は人間生活にとって不可欠の資源です。
化石資源には限りがありますが、木材資源には植えて育てれば永続的に利用できるという優れた特徴があります。育つまで何十年、何百年の年数が必要な森林の産物である木材、その木材を使った木造建築物は、何十年、何百年と長く大切に使い続けたいものです。
このことは、大げさかもしれませんが地球環境の維持・向上のために期待されているのです。
木材利用の長い歴史
古代縄文の時期、人々は身近にある樹木を石斧で切り出し木材として加工して、掘っ建て柱や茅葺屋根の垂木といった材料とし、いわゆる竪穴式住居を建てて住んでいたようです。当時の遺跡の調査報告を読むと、使われていた木材の種類は、場所や時期により異なるけれど、大まかにみるとヤチダモからスギに移っていったようです。
どちらも真っ直ぐで、縄文人にとっては加工し易く・使い易い木だったのでしょう。土に埋め込んだ木柱は意外と早くに腐ってしまったと思うので、どんな工夫をして長持ちさせていたのか?興味があります。
鉄製の鋸や斧が無い時代、体力や工夫を巡らせて木材を使っていたことが想像できます。当時から進んでいった燃料、生活用具材、建築・土木用材のための過度の森林伐採が、森林を自然林から現在の雑木林(里山)へと変えていったようです(能城修一、鈴木三男:1997、村嶌由直:2016)。
木材の長所・短所
木材は身近に存在し、軽くて強くて美しい優れた天然材料である反面、腐る・シロアリに食われる・燃える等の欠点もあります。この欠点は、見方を変えれば樹木(利用すると木材と呼ばれる)は、腐朽菌などの微生物やシロアリなどの昆虫に食べられ、いずれは自然に戻るという大きな長所(生分解性)でもあるのです。
樹木が生物により分解されることで、地球上が枯れた枝葉で埋め尽くされることはないのです。
腐る・シロアリに食われる木材
木材を建築や土木に使う場合、腐る・シロアリに食われるといった欠点は、国を問わない問題であり、世界中の大学・研究機関・企業で木材の耐久性が調べられています。
屋外で木材の傷み方を調べる

木材の耐久性を調べる主な方法には、木材を自然状態に暴露する野外試験と、実験室内で腐朽菌やシロアリにより劣化させる室内試験があります。
写真は、デッキ状の木材を土に接しない状態で置いた野外試験です。
地面に埋めた木杭の耐用年数

木杭を地面に突き刺しておく野外試験では、木材の種類にもよりますが、ほぼ数年で朽ちてしまいます。
スギとヒノキの耐用年数の一例は、次のとおりです(日本木材保存協会ホームページ資料)。
- スギの辺材(色の薄い部分):3~5年
- スギの心材(色の濃い部分):4~7年
- ヒノキの辺材(色の薄い部分):3~6年
- ヒノキの心材(色の濃い部分):3~8年
地中では、思ったよりも短い年数で劣化してしまうのです。
ここで示した耐用年数は、木杭を地面に埋めた野外試験の結果です。住宅そのものや、雨に当たらない構造材の寿命を示す数値ではありません。
被害の進み方から耐用年数を推定する

木材の被害の進み方を調べることで、耐用年数を推定します。写真のグラフは、暴露期間と平均被害度の関係を示したものです。
もちろん、雨に当たらない住宅の構造的な木材はもっと長持ちしますが、何年持つかの予測は難しいのが現状です。そのため、実際の木造住宅の調査が必要なのです。
シロアリによる劣化を野外で調べる

木材の野外試験では、シロアリによる劣化も調べられています。写真は、野外で行われるシロアリ試験の様子です。
実験室での腐朽試験

実験室内では、腐朽菌を用いて木材を劣化させる室内試験も行われます。写真は、実験室での腐朽試験の様子です。
実験室でのシロアリ試験

シロアリを用いた室内試験も、木材の耐久性を調べる方法の一つです。写真は、実験室でのシロアリ試験の様子です。
実際の木造住宅の調査

以上のような特徴を持つ木材を使って、木造住宅は建てられています。木造住宅に腐朽菌やシロアリによる被害が生じることは、一般に広く知られています。
しかし実際の木造住宅で、どの様な劣化がどの様な条件で起こるかについては、まだまだ情報が不足しているのが現状です。
長期優良住宅といった長持ちする住宅を建てるためには、腐朽菌やシロアリといった生物による劣化に影響する要因、部材・部位毎の劣化の発生度合や程度を知ることが不可欠です。これらを明らかにするための木造住宅の調査は、大学、研究機関、住宅・木材企業などにより個別に進められてきましたが、多様な工法・仕様に対する普遍的な劣化防止措置を導き出すことは容易ではありませんでした。
そのため、国交省国土技術政策総合研究所では2011~2015年度に24機関による産学官連携の共同研究「木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」を実施しました。その成果が以下のガイドラインとして示されています(国土技術政策総合研究所ホームページ資料)。
国交省が示す「長持ち住宅ガイドライン」

この住宅ガイドラインは、「住まい手」と「作り手」の双方を対象としています。
「住まい手」が抱く「耐久性の高い住宅を設計・施工してもらえるか不安」「欠陥住宅や不適切な設計・施工を避けたい」といった疑問に応えるものです。
また、「作り手」が求める「適切な納まりを知りたい」「納まりと問題点、劣化状況を知りたい」「耐久性を確保したい」「仕様と劣化の関係や原因を探りたい」といった要望にも応えています。
被害が発生した高さと築年数
ここでは、中島正夫氏(当時関東学院大学教授)による総括から、要点を紹介します。近年の木造住宅におけるシロアリ被害と腐朽について、発生した高さと原因が示されています。
シロアリ被害は地面から1mまでに多いものの、3.5mまで発生していました。腐朽のうち、水漏れ(生活水)によるものは高さにかかわらず4mまで、雨漏り(雨水)によるものは主に4m以上で発生していました。
被害は地面から1mまでで比較的多く、建築基準法が定める「高さ1mまでの防腐・防蟻処理」の重要性が確認されています。また、築30年以上になると、シロアリ被害と腐朽のいずれも増加していました。
劣化対策の四つの基本段階
木造住宅の劣化対策には、四つの基本段階があります。
- 地域的・局地的気象条件等へのしつらえ(土地に適した建物を考えること:筆者注)
- 雨仕舞、水仕舞、防水・防湿・通気・換気などの各部構法の信頼性(水から建物を守ること)
- 材料の耐久性能(耐久性の高い木材を使うこと)
- 維持管理のための支援システム(定期的にメンテナンスすること)
点検・保守や修繕で耐久性能を維持する
また、同資料の「密閉型(大壁)構法の腐朽進行モデル」では、外壁と内壁の内部にある木部構造体を水分や湿分から守るため、適切に設計・施工された保護システム(構法)が示されています。しかし、このシステムも経年劣化、偶発的な故障、想定以上の負荷、瑕疵などによって機能を失い、壁体内の木部構造体が劣化し易い環境に置かれることがあります。
さらに「木造住宅における躯体の耐久性能の変化」の図は、時間とともに進む性能低下に対して点検・保守や修繕を行い、耐久性能を維持することの重要性を示しています。
雨水と結露への対策
住宅の耐久性を向上させる上では、雨水の浸入と結露水の発生への対策が課題として挙げられています。
雨水は、屋根、外壁、バルコニー、開口部回り等から浸入します。主な原因は次のとおりです。
- 設計・施工不良(瑕疵)
- 仕上材・防水材の経年劣化
- 使い方や維持管理の不足
結露水は、外壁内、床下、小屋裏で発生します。主な原因は次のとおりです。
- 防露設計の不良
- 通気層・断熱・防湿層の施工不良や経年劣化
- 使い方や維持管理の不足
詳細は、下記の国土技術政策総合研究所の研究成果をご参照ください。
長持ち住宅ガイドラインと研究成果を読む(国土技術政策総合研究所)中島正夫氏による総括の配布資料(PDF)関東しろあり対策協会による文化財建造物の調査

(一社)関東しろあり対策協会では、協会員企業のボランティアが文化財建造物のシロアリ被害や腐朽の調査を実施しています。
調査を行うのは、「しろあり防除施工士」、「蟻害・腐朽検査士」の資格を持つ協会員です。
(公社)日本しろあり対策協会の「蟻害・腐朽診断マニュアル」、「文化財建造物の蟻害・腐朽検査マニュアル」に従い、調査が行われます。
これまでに国宝を含む619の文化財が調査され、専門性の高い報告書が作成され、文化財の維持・保全に役立てられています。
これは、特記すべきことだと思い最後に紹介しました。
(2026.10.29)
関東しろあり対策協会の文化財検査と検査報告書を見る



